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2023/06/09

Z世代を動かすブランディング戦略 「エモ」をプロモーションに生かす新発想~若者消費ラボが提唱する「エモ販促」のすすめ

INDEX

Z世代を捉えるキーワードの1つに「多様性」が挙げられます。そのため、捉えどころがなく、ターゲティングしづらいというマーケティング課題がそこには存在しました。

その中で、Z世代の消費活動の調査・分析を行う株式会社電通プロモーションプラスの「若者消費ラボ」では、ミレニアル世代、Z世代のメンバーが独自の視点からZ世代のインサイトを研究。感情を揺さぶる“エモ(い)”を起点に、複数のキーワードを組み合わせることでZ世代に刺さるプロモーションを実現する「エモ販促」という概念を生み出しました。

「若者消費ラボ」所長、電通プロモーションプラス PR・コミュニケーションプランナー 五十嵐響介氏に、「Z世代の攻略ポイント、そして彼らを動かす『エモ販促』」について聞きました。

Z世代の購買行動、2つの攻略ポイント

Q.まずは、いわゆる一般的なZ世代のイメージと特徴について教えてください。

五十嵐:一般的にZ世代は若年層、主に10代後半から20代前半の生活者を指す言葉として使われます。Z世代はスマホ・SNSネイティブであることから、これまでの世代とは異なった特徴を持つといわれます。

まず、価値観の面においては「多様性」と「不完全性」。個性を大切にする一方で、世間体も気にする。そしてスマホネイティブだからこそ、リアルで共感できる第三者情報を信用する傾向にあります。

次にメディア行動においては、「SNSの使い分け」「(SNSの)リコメンド」「(Instagramで)タグる」と、SNSを起点とした情報接触が多い傾向にあります。

最後に、最近の購買トレンドとしては「TikTok売れ」が挙げられます。どれも、一度は耳にしたことがある「Z世代の特徴」ではないでしょうか。
一般的に言及されるZ世代の主な特徴

Q.どの特徴も、「スマホ・SNSネイティブ」であることが大きく影響しているように感じます。やはり購買行動にも、そうした背景は影響しているのでしょうか。

五十嵐:そうですね。Z世代の購買行動は、情報接触から、購入/利用の判断が非常に短い傾向にあります。瞬時に判断するのは、彼らが日常的に多くの情報を浴び、情報の取捨選択をすることが習慣化しているからでしょう。

そんなZ世代の購買行動を、「知る/買う瞬間」と「使う/拡散する瞬間」で捉えると、2つの攻略ポイントがあることが見えてきます。

Z世代攻略の新たな概念「エモ販促」

Q.「直感」に訴えるためには、どうしたらいいのでしょうか。

五十嵐:Googleが提唱した「直感トリガー」というものがありますが、これらのトリガーを押さえることによって「瞬間的に買いたい気持ちの醸成」、「買いたいと思う商品を探す行動喚起」、「買い物行動(アクション)」を誘発できると、若者消費ラボでは考えています。
6つの「直感トリガー」
五十嵐:具体的には、6つのトリガーがあると言われていますが、特にZ世代へのアプローチにおいて重要なのが、「For me(自分にぴったり)」と「Adventure(未知の/新しい/興味をそそる)」です。

この2つが重要な理由としては、Z世代はSNSで最適化された“おすすめ”で自分にとって有益な情報をすぐピックアップする習慣があり、その“おすすめ”は“新しさ”も担保している。さらには企業ではなく発信者が主語となっているため、人の感情も動きやすい=エモくなりやすいから、ということが挙げられます。

私たちは、この2つのトリガーを意識した商品・サービスとの出会いを創出することで、Z世代にポジティブな印象を届けられると考えており、2つのトリガーを押さえたZ世代攻略の新たな概念を「エモ販促」と名付けました。
Z世代に有効な2つのトリガーを軸に、Z世代を攻略する「エモ販促」

Q.Z世代を形容するキーワードとして「多様性」が挙げられます。その中で「エモ販促」では、どのようにZ世代のインサイトを捉えているのでしょうか。

五十嵐:Z世代は、多様化する感性を「エモい」という言葉で表現しています。エモいは、特定の感情を意味するものではなく、「なんかいい(自分の感性に共鳴する)」ときに使われる言葉です。

ですから、「エモい」の意味は、前後の文脈によって、さまざまに変化します。例えばノスタルジックや切ない、感動、かわいい、さらには共感などもそこには含まれますので、「感情の揺らぎ全般」とも形容できます。
Z世代が使う「エモい」には、さまざまな意味が内包されている
五十嵐:「エモ(い)」には、Z世代の感性が詰まっています。つまり「エモ(い)」を正しく知ることで、Z世代のインサイトを捉えることができると私たちは考えたのです。

では、「エモい」を販促に生かすためには、どうしたらいいのか。私たちは「エモい」に含まれる言葉を分析、そのエッセンスを抽出。「エモい」を体系的にひもとき、販促と組み合わせることで「エモ販促」として活用、提唱しています。

キーワードを組み合わせることで「エモ」を誘発

Q.「エモ」によって、Z世代を動かすのが「エモ販促」なのですね。

五十嵐:Z世代の消費行動と「エモ」は、つながっています。これまで、モノを買う、コトを買う、トキを買うという大きな流れがありましたが、そこに「エモを買う」という新たなパターンが存在します。「エモを買う」とは、感情が動くことに価値を見いだし、その「エモさ」を求めてモノやサービスを購入することです。

これは、購買の対象が「情緒的な価値にまで拡張」していることを意味しています。商品購入・ブランドへの好意を高めるきっかけとして、「エモ」が大きく影響しており、「エモ」を無視してZ世代を攻略することは難しい、というのが私たちの見解です。

Q.「エモ販促」では、いかにして「エモい」を生み出すのでしょうか。

五十嵐:私たちは「エモい」に含まれる感情、そしてそれを生み出す要因となるキーワードを抽出しました。それらを組み合わせることで「エモ」を誘発し、プロモーションに活用しています。

キーワードは大きく「コンテクスト」「クリエーティブ」「トピックス」「アクション」の4つに分類されます。
「エモ販促」において重視されるキーワードの一部。「エモ」を生み出す要因(エッセンス)を抽出し、4つのカテゴリーに分類している

1. コンテクスト
ありのままの自分を尊重する、無理しないといった、Z世代が「受け入れやすい文脈」が存在します。これらを意識することで、企業からのメッセージも届きやすくなります。

2. クリエーティブ
フィルムやレトロなど、Z世代が好きな表現手法を抽出しています。これらを意識することで、Z世代の目を引くクリエーティブとなります。

3. トピックス
卒業旅行や誕生日などの刺さりやすいモーメント、学校や夜などのイメージしやすいシチュエーションを、「トピックス」というカテゴリにまとめています。これらのキーワードを意識することで、Z世代が共感しやすいストーリーを生み出すことが可能です。

4. アクション
シェアや推し活など、Z世代が好きなことを、キーワードとして抽出。Z世代に向けて体験価値を提供したい場合には、これらのエッセンスを意識することで、行動喚起につなげることが可能です。

五十嵐:これまでZ世代へのアプローチに悩まれていた企業の皆さんは、Z世代の多様性=捉えづらさとなっていたように思います。その見えなかった部分を、私たちは「エモ」起点で、エッセンスを抽出し、可視化することで、感性の言語化を実現しています。

一方で、Z世代は「ウソ」に敏感です。インフルエンサー施策においても、リアルなメッセージでないと届かないといった、いわば「作法」のようなものは意識するという前提のもとで、これらのキーワードを活用していくことが重要であると考えています。

製品、広告、販促に生きる「エモ」

Q.マーケティング観点で「エモ」を捉えたとき、どのような活用法があるのでしょうか。

五十嵐:大きく3つあると考えています。

1つ目は、コンセプトやパッケージに“エモい”要素を落とし込む「エモ×製品」。これにより、Z世代の価値観に寄り添った商品開発が可能です。

2つ目はグラフィックやコピーに“エモい”要素を落とし込む「エモ×広告」。これにより、Z世代の共感を呼ぶようなメッセージの発信が可能です。

そしてプロモーションやキャンペーンに“エモい”要素を落とし込む「エモ×販促」。これは、商品やサービスの枠組みを超えて、“エモ”起点でZ世代にアプローチする手法であり、仮に「エモい」商品でなくても、Z世代に刺さる購買訴求が可能です。
若者消費ラボが考える、3つの「エモ」を活用したマーケティング手法

Q.実は「エモ×販促」になっていた、というケースもありそうですね。

五十嵐:はい。偶発的な「エモ×販促」は既にいくつも事例として存在していると考えています。しかし「エモ」をマーケティングで活用するためには、体系的に「エモ」を捉えることが必要です。それを実現し、Z世代の感性にアプローチするのが私たちの「エモ販促」なのです。

これから私たちは、2023年を「エモ販促元年」にすべく、さまざまな企業さまに「エモ販促」によるプロモーション支援を提供していきたいと考えています。
「エモ×販促」というムーブメント自体は、既に生まれている。そのムーブメントを体系的にひもといた概念が「エモ販促」

リアルZ世代の意見も反映し、“届きやすい仕掛け”を提案

Q.感性を言語化した「エモ販促」では、若者消費ラボのZ世代のメンバーからも定期的にトレンドなどをヒアリングしているそうですね。

五十嵐:はい。普段から、Z世代のメンバーよりさまざまな情報共有があります。例えば、「Z世代はシチュエーションを買う」。これは先ほど紹介した「エモを買う」につながることですが、そこにエモい体験があるならば多少高価でもお金を払う、というZ世代の消費行動にまつわるものです。

一方で、音楽や動画などは「サブスク」、車での移動のように機能だけを求める場合は「シェアサービス(またはレンタル)」を利用するといった、所有しない消費行動も同時に存在します。しかしそこに「情緒(エモ)」があれば、同じものでも所有する傾向にあります。例えば、CDやレコードもその1つです。曲はサブスクで聴けるけれど、あえて所有するのは、時代を反映したジャケットなどに「独特の情緒」を感じるからだといいます。

ほかにも昨今、注目されるキーワードに「パーソナライズ」がありますが、Z世代はフルカスタマイズのものよりも、ある程度カテゴライズされているけれど、選択肢が多いものを好む傾向にあります。既に、彼らのその特性を捉えた商品も発売されています。飲料で例えると、味よりも飲むシチュエーションを訴求し、Z世代の感性に訴える。「エモさ」を届けることでZ世代の共感を生み出すという手法です。

ムードやシーンに着目し、商品と組み合わせる。「ムードペアリング」「シーンペアリング」と私たちは呼び、マーケティング戦略に活用しています。

Q.実際にメンバーの皆さんから共有される情報にも「情緒が大切」など「エモ販促」につながるキーワードがたくさんきているのですね。最後に、「エモ販促」の展望を聞かせてください。

五十嵐:ひと昔前までは、「この方法が鉄板」というアプローチが広告にはあったように思います。しかしライフスタイルの多様化が進んだことで、なかなか届けたい相手に、広告を届けることが難しくなってきました。

特に、Z世代とのコミュニケーションは難しく、悩まれている企業の方も多いのではないでしょうか。その理由は、Z世代へのアプローチには正解がないと感じているからだと思います。

その中で「エモ販促」は、最適な答えを導き出す“道しるべ”となれる概念だと私は信じています。きっとお役に立てることがあると思いますので、ぜひ興味のある方には、お気軽にお問い合わせいただけたらうれしいですね。

 


 

本記事で取り扱った話題以外でも、下記のような疑問や課題、ニーズをお持ちであれば、お気軽にCONTACTよりお問い合わせください。

この記事は、過去に 2023年4月6日電通プロモーションプラス「BAE」で公開された記事を一部編集し掲載しています
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株式会社電通プロモーションプラス BAE

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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