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2023/11/08

Web3.0でリスナーに新たな体験をもたらす「J-WAVE LISTEN+」の成功の秘訣とは?(前編)

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2023年5月1日、J-WAVE(81.3FM)が新サービス「J-WAVE LISTEN+(以下、リッスン・プラス)」の提供を開始しました。これはラジオの聴取体験にWeb3.0技術を組み込んだサービスで、エントリーしたユーザーは、J-WAVEの放送を聴取した合計時間が月間50時間を超えると、「ロイヤル・リスナー」としてデジタルステッカー(NFT)を獲得することができます。

Web3.0技術によって、ラジオリスナーに今までにない体験を届ける同サービスは、どのように生まれたのでしょうか。前編では、立ち上げに関わった「AR三兄弟」として活動する開発者の川田十夢氏、シビラ 株式会社 CEOの藤井隆嗣氏、株式会社 J-WAVEの小向国靖氏、株式会社 電通グループの鈴木淳一氏の4名による座談会を通じて、お伝えします。

NFTによって、ラジオリスナーに新しい体験を届ける

鈴木:まず、私からこのサービスの概要についてご紹介させていただきますね。J-WAVEアプリ、radiko(スマートフォンやパソコンからラジオが聴けるサービス)のアプリ、またはJ-WAVEサイトからラジオを聴いていただき、聴取合計時間が毎月50時間以上になると、ロイヤル・リスナーとして評価され、NFTによるデジタルステッカーを獲得することができます。さらにたくさん聴いていただいた方には、イベントへの応募や賞品と交換できるポイントをプレゼントしたり、番組やイベントと連動したスペシャルな体験をお届けしたりと、ラジオをより楽しんでいただくためのさまざまな仕掛けを企画・実施しています。
J-WAVE LISTEN+は、アプリでラジオを聴いた時間や50時間聴いた証明のデジタルステッカー、聴取傾向の分析結果を確認できる
鈴木:私は電通グループでWeb3.0をはじめ、さまざまな先端テクノロジーの利活用に関わってきた者としてこのプロジェクトに参画していますが、同時に、J-WAVEのヘビーリスナーでもあります。ファンとして実際に「リッスン・プラス」を利用していて感じるのは、NFTを活用した世界的にも類を見ない先進的なプロジェクトでありながら、ユーザーにとっては全く難しいものではなく、気軽に楽しく使っていただけるところが非常に新しいなと。

では、開発に関わってきた皆さんから、立ち上げの経緯などをお話しいただければと思います。まずは、開発ユニット「AR3兄弟」としてご活躍されている川田さんから、お願いできますか。
株式会社 電通グループ 鈴木 淳一氏
川田:私は、J-WAVEの『INNOVATION WORLD』という番組のナビゲーターを務めており、以前からJ-WAVEさんとは番組やイベントにテクノロジーを取り入れた実験的な企画をさまざま行ってきました。今回のサービスは、2022年に開催された「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA2022(以下、イノフェス)」というイベントで、シビラさんと共同で「AR Identity」という実験を行ったのがそもそものスタートです。

「AR Identity」とは、NFTによって、デジタル空間における個人のアイデンティティー情報を現実空間での与信として活用できる仕組みに関する実験です。この時発表したのは、NFTを所有している人がイベント会場という実空間で行動を拡張する実験で、NFTを用いて近くにある電球を触れることなくつけたり、その場に流れている音楽をチューニングしたりできるというものだったんですけど、やってみたらかなりの可能性を秘めている施策だと実感したんです。

ですが、こうした仕組みを活用いただくには、ユーザーにデジタル空間におけるウォレット(NFTなどのデジタル資産を保管する場所)を持ってもらう必要があります。しかしこの手のテクノロジーにはまだ馴染みのない方が多いので、ウォレットを持ってもらうこと自体が結構ハードルが高いということも分かりました。じゃあもっと気軽にウォレットを持ってもらうにはどうすればいいかと考えた時に、NFT配布を会員制サービスのように捉えるといいのでは?という1つの答えに辿り着きました。そんな中、radikoが大きくアップデートされて、リスナーが何を聴いているのか、という聴取データが把握できるようになったこともあり、そこにNFTやウォレットを組み込むという構想が膨らんでいったわけです。
AR三兄弟 川田 十夢氏
藤井:シビラは、「unWallet(アンウォレット)」というウォレットサービスを提供しています。「AR Identity」の実験でも、今回の「リッスン・プラス」でも、当社の技術を活用いただいています。「unWallet」は、従来のウォレットを利用するのに必要だった専門知識や難しい操作を必要とせず、どなたでも簡単に、ウォレットの存在を意識せずにNFTをコレクションすることができます。
シビラ 株式会社 藤井 隆嗣氏

専門知識がなくても、気軽に楽しめるWeb3.0サービスに

鈴木:J-WAVEさん側の視点では、「リッスン・プラス」の立ち上げまでにどのようなプロセスがありましたか。
小向:radikoによって精緻な聴取データが把握できるようになったのは2年くらい前なのですが、これを受けてJ-WAVEでは、CDP(Customer Data Platform)ならぬ「CCP(Customer Communication Platform)」を導入しました。CDPが顧客に関する情報を蓄積するためのデータベースであるのに対して、CCPはリスナーとの「コミュニケーション」のためのデータベースですね。ここにradikoの聴取データを格納、分析しています。

加えて、「J-me」というJ-WAVEリスナーの会員サービスがあり、それに登録している約30万人のデータも組み合わせることで、真のヘビーリスナーが浮かび上がってくる。そこで、私たちにとって大切なお客さまであるこの方々に感謝を伝えたいという発想になり、2022年7月に、「リスナーの皆さん、月間100時間以上J-WAVEを聴いたらいいことがありますよ!」と呼び掛けて、「J-WAVE LISTEN CHALLENGE(リッスン・チャレンジ)」という1カ月限定の企画を実施したんです。

ただ、このときはNFTの配布はなく、累計100時間以上の聴取を達成した方にはデジタルコンテンツやオリジナルグッズをプレゼントするのみでした。しかも、聴取証明のために、参加者はJ-WAVEのアプリとradikoのアプリにおいてIDFA(広告用識別子)の追跡を許可しないといけないので、結構ハードルが高かった。それにもかかわらず、エントリーしてくれた3,000人中半数が100時間を達成したんです。「このハードルを乗り越えてきてくれるなら大丈夫」と、実装に向けて本格的に動いていくことになりました。NFTを活用するというアイデアは、その中で生まれたものです。

ただ、NFTによる聴取証明を組み込むのであれば、ユーザーにウォレットを取得してもらう必要があるので、ユーザーにとってはさらに一手間増える。IDFAの設定に加えて、ウォレットの取得、「J-me」の会員登録ということになると、どのくらいの人がやってくれるだろう?というのが懸念点でした。そんなことを考えていた矢先、イノフェスでの取り組みを知り、川田さんに相談して、「リッスン・プラス」の施策が固まっていったわけです。結果、半年で5,000人の参加を目標にしていましたが、1カ月で楽々クリアできました。
株式会社 J-WAVE 小向 国靖氏
鈴木:シビラさんにチームに加わっていただいたのは、「unWallet」という素晴らしい技術の存在が大きいですね。特に、NFTを取得すると同時にウォレットも発行される一気通貫型のユーザー動線は魅力的。Web3.0関連の技術は、さまざまなサービスの可能性を広げてくれますが、一方でまだまだ一般のユーザーにとってはハードルが高いものだと思うので、ウォレットなどの存在を意識せず気軽に使えるという点は、「リッスン・プラス」にとって大きな強みになったと思います。
藤井:ありがとうございます。NFTにはパブリックなものとプライベートなものがありますが、特にパブリックチェーンは一般ユーザーが扱うには、まだまだハードルが高いのではないかと思います。理由の1つがやはりウォレットの入手。もう1つは、企業がNFTを発行したりユーザーがNFTを移動させたりするとき、手数料として暗号資産が必要なんですね。でも暗号資産の入手もなかなかハードルが高い。しかも、暗号資産の秘密鍵(資産管理に必要なコード)が分からなくなるとゲームオーバー。その難題を解決できるものとして提供しているのが「unWallet」なんです。小学生にも高齢者にも、NFTを滑らかに届けられる仕組みだと自負しています。

 


 

先進的なプロジェクトでありながら、ユーザーが「新しいが故の難しさ、ハードルの高さ」を感じることがないよう工夫されていたことから、想像以上のスピードでラジオリスナーに広がった「J-WAVE LISTEN+」。後編では、その成功の秘訣やサービスリリース後の気付きについて深掘りしていきます。

NFTやWeb3.0と聞くと、ハードルが高く、自社では手を出すことができないだろうと考えている企業も多いかもしれません。しかし、新しい技術やお客さまに寄り添ったサービス設計によって乗り越えられることもあるのではないでしょうか。アイデアを形にするためのお手伝いが必要な時は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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