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2023/08/28

AIが社員の健康を守る?表情分析AIでリモートワーカーの感情変化を把握。「INNER FACE™」は、人とビジネスの関わり方をどう変えるのか(前編)

INDEX

コロナ禍以降リモートワークが浸透し、現在もオフィスワークとリモートワークを組み合わせた、ハイブリッドワークを継続する企業が少なくありません。しかし、リモートワーク環境下では従業員のわずかな変化を察知できないことが多く、メンタルヘルスケアをどのように進めるかが喫緊の課題となっている企業も多いのではないでしょうか。

そんな中、株式会社電通デジタルでは、リモートワーク中の従業員の表情をAIにより分析する「INNER FACE™」(インナーフェイス)の開発に産学共同で取り組んでいます。このソリューションは、人々の働き方にどのような影響をもたらすのでしょうか。

そこで今回は、プロジェクトに携わる電通デジタルの水町洋介氏、畑雄樹氏、髙坂秋乃氏に「INNER FACE™」の画期性について聞きました。インタビュー前編ではソリューションの概要、開発の経緯についてお届けします。

表情を毎秒計測し、感情の推移をグラフ化

Q.始めに、今回のプロジェクトにおける皆さんの役割、普段担当している業務について教えてください。

水町:私は「INNER FACE™」のプロジェクトリーダーを務めています。普段はクリエーティブやプランニング、広告コミュニケーションの企画を担当しています。
畑:開発責任者です。普段はUIデザイングループで、Webサイトなどのデザインに関わるエンジニアをしています。
髙坂:私はいわゆるアカウント・PMの仕事を担っています。普段はクリエーティブ領域で、Webサイトの制作・運用、SNS運用のプロジェクトマネジメントなどをしています。

Q.ありがとうございます。では早速、「INNER FACE™」の企画を立ち上げた経緯についてお聞かせください。

水町:電通デジタルでは、デジタルテクノロジーとクリエーティブを活用し、社会課題の解決を目指す「ソーシャルプロジェクト」を継続的に行っています。その一環として、私たちが自主的に立ち上げた企画が「INNER FACE™」になります。

リモートワークが浸透した約2年前、私は1日中誰とも話さない日が続き、自分のメンタルヘルスに不安を感じたことがありました。元々心理学にも興味があったため、特殊な状況下に置かれた人間のメンタルヘルス状態を知りたくて、この企画を思いつきました。
株式会社電通デジタル 水町 洋介氏

Q.企画の発端は水町さんの実体験と心理学への関心、というわけですね。「INNER FACE™」はどのようなソリューションなのでしょうか。何ができるのか、具体的に教えてください。

水町:端的に言うと、「表情分析AIを使ってリモートワーカーのメンタルヘルス状態を把握するソリューション」です。パソコンに搭載されたWebカメラなどでリモートワークを行う従業員の表情を捉え、1秒に1回数値化することで、感情の推移を客観的に把握できます。さらに、メンタルヘルスケアテストを定期的に実施することで、自分自身でもコンディションの把握が可能です。感情の推移は時間帯や曜日で比較することができ、計測を重ねるほど自身の感情の変化の傾向を把握でき、精度が上がっていく仕組みになっています。
「INNER FACE™」の使用イメージ

Q.まずは水町さんの企画のアイデアがあって制作につながっていったとのことですが、プロジェクトメンバーとして加わるにあたり、髙坂さんは企画の概要を聞いてどう思いましたか?

髙坂:当時はコロナ禍で人と会う機会が減り、私の周りでも体調を崩したり、メンタルの不調を感じたりする人が増えていました。社員の表情変化から感情推移を把握できる「INNER FACE™」は非常に画期的だと思い、声が掛かってすぐにプロジェクトへの参加を決めましたね。
株式会社電通デジタル 髙坂 秋乃氏

表情とメンタルヘルスの相関性を明かす、産学共同プロジェクト

Q.現在、福島学院大学・早稲田大学の心理学・人間科学の専門家とともに、リモートワーカーの表情とメンタルヘルスの相関性について研究を進めているそうですね。産学協同の取り組みに至った経緯を教えてください。

水町:「INNER FACE™」は、リモートワーカーのメンタル状況を、表情変化から察知することを目的としています。しかし、表情とメンタルの関連を明らかにするには、デリケートな領域でもありますし、学術的な見解が必須だと考えました。そこで、専門家に意見をいただきながら、表情とメンタルヘルスの相関性を検証するにはどのようなデータを取得すればいいのか、研究の枠組みを作っていきました。

Q.開発において、技術面で苦労されたことはありますか?

畑:私はプロジェクトの途中から加わったのですが、業務を引き継いだ時に通信データ量があまりにも多いことに驚きました。1秒に1回表情データを数値化し、サーバ―に蓄積するので、どうしても通信量が多くなってしまうんですよね。その後、大学の先生方にデータを見ていただくフェーズがあるので、トラブルによってデータが破損しないよう、注意を払うようにしていました。実証実験が始まってからもプログラムの修正がありましたが、データに問題が生じると取り返しがつかないことになるので、とにかくデータに悪影響を与えないよう慎重に対応しました。

また、普段はUIデザインに関する仕事をしているので、「INNER FACE™」でもその知見を生かせたと思っています。負荷がかかる環境においても、通信データ量との折り合いをつけつつ、グラフなどで分かりやすいUIを目指しました。
株式会社電通デジタル 畑 雄樹氏

Q.現在、開発はどのような段階にあるのでしょうか。

水町:今は研究段階で、対象者が1カ月間使い続けて表情データを提供し、研究者の方々に解析していただいているところです。ここから「こういう表情傾向がある人はメンタルに影響が出る可能性が高い」といった相関関係を明かすフェーズになっていきます。

また、表情分析と併せて、主観アンケートも約2時間おきに取り、表情の分析結果と主観が一致しているのか検証しています。他にも、2週間おきにメンタル状況に関するテストを行い、メンタルと表情と主観の相関関係について、データを取りまとめているところです。

 


 

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、メンタルに不調を来す人は増加傾向にあると言われています(※1)。また、リモートワーカーのメンタルヘルスケアは未だ整備されておらず、課題を感じている企業は7割を超えるという調査結果も出ています(※2)。リモートワーカーのメンタルの状態を察知し、深刻な状況になる前にケアできるとしたら、企業と従業員双方にとってプラスの効果が生まれ、より柔軟な働き方が可能になるのではないでしょうか。

後編では、「INNER FACE™」発表後の反響、メンタル不調の予測だけではないポジティブな活用法について、話を深めていきます。

DXが進む中、従業員の働き方について悩みを抱える企業も少なくありません。新しい働き方に関するご相談、「INNER FACE™」へのお問い合わせは「CONTACT」からお願いします。

 

※1 参照:Tackling the mental health impact of the COVID-19 crisis: An integrated, whole-of-society response(OECD)
※2 参照:テレワークの方が従業員のメンタルケアが難しいが7割超。テレワーク推進でストレスが増えたと実感(月刊総務)

この記事の企業サイトを見る
株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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