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2023/11/15

金融の枠組みを超えて地域産業を振興。九州みらいCreationがつくる地域の未来(前編)

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2023年4月、株式会社 肥後銀行と株式会社鹿児島銀行を傘下に置く株式会社 九州フィナンシャルグループは、子会社として株式会社九州みらいCreationを設立しました。現在、同社では南九州(熊本県・鹿児島県・宮崎県)3県の農林水産物を海外に売り込む海外ビジネス支援事業、地域事業者と消費者をつなぐECモール事業を展開しています。

そもそも地域のリーディングバンクを擁する九州フィナンシャルグループが、非金融分野に乗り出したのはなぜでしょうか。そこで今回の記事では、九州みらいCreationの代表取締役社長 萩原大造氏と、九州みらいCreation設立に向けて伴走を続けてきた株式会社電通コンサルティングの杉本将隆氏と加形拓也氏に、設立の背景や地域産業が抱える課題、そして今後の展望について語っていただきました。前編では、地方の銀行を取り巻く経営環境や、九州みらいCreationの設立意図について語り合います。

地銀には地域を束ねる地域商社機能が必要

加形:はじめに、九州みらいCreationの設立経緯についてですが、いわゆる地銀を巡る状況や地域産業が抱える課題はどのようなものか、背景を交えてお聞かせください。
萩原:九州みらいCreationの母体である九州フィナンシャルグループは、2015年、鹿児島銀行と肥後銀行が経営統合して発足した金融持株会社です。両行とも100年以上の歴史がある地域のリーディングバンクであり、お客さまと共に地域の産業に貢献してきました。ですが、近年は人口減少が進み、地域経済は縮小しつつあります。金融庁からも、約10年前から今後の10年戦略についてヒアリングを受けており、両行でも銀行の枠を超えて地域を盛り上げるため、いろいろな種まきをしてきました。

こうした中で、「銀行には地域を束ねる地域商社機能が必要だ」という議論になりました。これからは、地域が1つのコングロマリットになる必要がある。このような構想を巡らせる中、金融業界の規制緩和というきっかけもあり、地域商社として九州みらいCreationを設立することになりました。

九州フィナンシャルグループでは、2021年4月から第3次グループ中期経営計画「改革」を進めています。その戦略の柱の1つが、地域商社機能の強化・創造です。その実現に向け、大きく踏み出した第一歩が九州みらいCreationなのです。
株式会社九州みらいCreation 萩原 大造氏
加形:地元企業と共に、地域産業を振興する。それが設立意図ということですね。
萩原:そうですね。当社のパーパスは、「地域を創り、未来を拓く」です。私たちが地域のお客さまと一緒になって地域をつくっていく。しかも、間接的に支援するだけでなくて、私たちが主体となって未来を開いていく。そういった覚悟を持って設立しました。
加形:九州みらいCreationでは、どんなビジネスモデルを目指しているのでしょうか。
萩原:私たちが目指すのは、地域、地域事業者、地域の個人消費者、そして私たち九州みらいCreationで「四方良し」のビジネスモデルを作ることです。私たちの独りよがりではなく、地域の持続可能性を念頭に置いて事業を推進したいと考えています。

熊本県・鹿児島県・宮崎県の横の連携を強化すれば、あたかも「株式会社南九州」のように一体となってシナジー効果を生み出せるはず。自治体主導だけではスムーズに進まないことがあっても、私たちが旗振りをすれば、例えば「3県合同で海外に展開する」といったこともできると思っています。
加形:九州フィナンシャルグループにおいて、新会社である九州みらいCreationはどのような位置付けの会社なのでしょうか。
萩原:九州フィナンシャルグループの中核を成すのは、肥後銀行、鹿児島銀行などの金融部門です。九州みらいCreationは金融分野ではなく、非金融部門の中心を担っていく企業です。
加形:九州フィナンシャルグループにとって、九州みらいCreationは野心的で新しい領域の会社になるんですね。ここまで伴走してきた電通コンサルティングの杉本さんは、どう感じましたか?
杉本:九州フィナンシャルグループは、南九州3県を中心に事業を展開しています。私は宮崎県出身なので、地元のリーディング企業である九州フィナンシャルグループに親近感を抱いていました。しかも、萩原社長は南九州をもっと盛り上げようという強い思いを抱いています。これまで各地域でバラバラに展開していた事業を束ねて、情報をつないでモノを売る。歴史ある地方銀行が新事業でイノベーションを興そうという気概に共感し、電通コンサルティングもパーパス策定の段階から伴走させていただきました。
株式会社電通コンサルティング 杉本 将隆氏

海外のニーズを捉えて地域につなぐ、海外ビジネス支援事業

加形:九州みらいCreationでは現在、海外ビジネス支援事業、ECモール事業を展開しています。まず、海外ビジネス支援事業について、詳しくお聞かせください。
萩原:はじめにお伝えしたいのは、私たちはこの2つの事業だけにこだわるつもりはないということです。この2つに限らず、地域の課題解決に資する事業や、非金融部門で私たちができることを、地域のために行っていきたいと考えています。

海外ビジネス支援に関しては、もともと鹿児島銀行、肥後銀行でも行っていました。鹿児島銀行は上海と台北に、肥後銀行は香港、上海、台北に事務所があります。ですが、銀行の海外事務所では営業活動ができず、サポートなどをサービスの一環として行うのみであったため限界がありました。

一方で、南九州は農水産物の一大生産地です。これまでは東京という大消費地に生産物を運んでいましたが、実は台湾や香港に運ぶのも距離的にはほとんど変わりません。南九州の農水産物は、世界的にブランド力がある北海道と比べても、生産量や品質に遜色はないと思っており、地の利を生かせば商機があるはずです。しかも、農林水産省が掲げる輸出拡大実行戦略も追い風になっています。

こうした中で、私たちが目指すのは現地のニーズをしっかり把握し、マーケットインで南九州の事業者につなぐことです。例えば「今、香港ではこういう商材が求められています。御社の商材を香港に持っていきませんか?」と、銀行と連携しながらつなげていく。一大生産地としてのバックヤードは既にあるので、私たちが海外販路を拡大し、地域のGDPの底上げに寄与できたらと思っています。
加形:これまでも銀行が行ってきた南九州の事業者の海外支援を、九州みらいCreationではビジネスとしてより強化して営業支援を行い、地域経済に貢献するということなんですね。まだ始まったばかりだと思いますが、どのような商材の現地ニーズが高いのでしょうか。
株式会社電通コンサルティング 加形 拓也氏
萩原:やはり、農産物、海産物はニーズが高いですね。エリアとしては、香港、台湾は銀行が事務所を置いているため親和性もあります。今後は、経済成長率が高い国をはじめ、勢いのある国にビジネスチャンスを広げていきたいです。

ただ、私たちはあくまでも地域商社であり、大手商社のような存在になるつもりはありません。大手商社が敬遠するような、小ロット多品種の商材も請け負い、痒いところに手が届くような支援をしたいと考えています。お客さまと一緒に、汗をかきながら海外ビジネス支援を行っていきたいですね。

 


 

地域事業者の課題を解決し、地域産業を振興するために設立された九州みらいCreation。同社の狙いは、自社だけの利益を追求することではありません。南九州の事業者が一体となり、地域の未来をつくる。それこそが、地域商社である同社の役割だと分かってきました。後編では、もう1つの柱であるECモール事業について聞いていきます。

電通グループでは、新会社の設立や、新規事業の創出を多角的にサポートしています。興味を持たれた方は、お気軽にCONTACTよりお問い合わせください。

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株式会社電通コンサルティング

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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