加速する少子高齢化により、地方の過疎化が深刻な社会課題となっています。中でも離島は、人口減や働き手不足に加え、気候変動の影響により船便の運行が難しいといった理由から、食料や日用品の調達が困難な状況に置かれる、いわゆる「買い物難民」が大きな課題の1つになっています。有人離島を有する長崎県松浦市でも、このような問題を抱えていました。
2024年、こうした社会課題の解決に向け松浦市は、株式会社電通九州、株式会社エアロネクストなど4社と、ドローンを含む次世代高度技術の活用による地方創生に向けた連携協定を締結。データ・ITを活用し物流の効率化を図る従来の「スマート物流」の概念に加え、地域社会におけるモノの流れを最適化し、さらなる省人化対応や脱炭素化を目指す「新スマート物流」の導入を開始しました。今回は、この取り組みに携わる松浦市政策企画課の山口武氏、エアロネクストの子会社である株式会社NEXT DELIVERYの古橋章吾氏、電通九州 地域価値共創局の藤賢太郎氏にインタビュー。前編では、取り組みの背景や、それぞれの役割などについて聞いていきます。
ドローン活用による新スマート物流を構築し過疎地の危機を救う
Q.今回の取り組みにおけるそれぞれの役割を教えてください。
古橋:ドローンの技術開発を行うエアロネクストを親会社に持つNEXT DELIVERYは、ドローンを活用し、陸送と空送をベストミックスさせた新スマート物流という事業で、ラストワンマイルの地域物流の効率化や、地域・社会の課題を解決するという取り組みを行っています。これまでに全国10の自治体で新スマート物流を展開、50以上の自治体では実証実験をさせていただき、積み上げてきた新スマート物流の利点を抽出し、それらをどう松浦市の課題解決に活用するかを考えて実現していくことが、今回の私たちの役割です。
株式会社NEXT DELIVERY 古橋 章吾氏山口:長崎県松浦市は、有人離島3島(黒島、飛島、青島)や中山間地域を抱える典型的な過疎の自治体で、市では特に“買い物難民対策”を課題としていました。離島には中山間地域とは異なる課題が多々あり、解決手段を模索していたところに今回のプロジェクトが立ち上がったので、課題解決につながるのではないかと期待しています。過疎地と言っても全国さまざまで、それぞれ事情が異なりますので、松浦市ならではのリソースの提供や、事業を進める上で出てくる課題のフォローなどが市の役割だと認識しています。
藤:現在、
dentsu Japan(国内電通グループ)では、DX領域の拡張に加え、IGP(Integrated Growth Partner)を掲げて広告やマーケティングの領域を超えたより広い領域から、企業や地域社会の成長をサポートしようと取り組んでいます。この考えをベースに、電通九州では2023年1月に地域価値共創局が立ち上がりました。今回のプロジェクトには、松浦市の皆さんと新しい価値を共創していこうと、この地域価値共創局が参画させていただいています。役割としては主に市との窓口、そしてプロジェクト全体の企画・マネジメント業務になります。
ドローン配送のビジネスモデル構築に加え、地域の新しい価値創造を目指す
Q.2024年2月27日に結ばれた「新スマート物流に関する包括連携協定」の具体的な内容について教えてください。
山口:今回の包括連携協定は松浦市と、セイノーホールディングス株式会社、エアロネクスト、KDDIスマートドローン株式会社、電通九州とで締結しました。目的は、松浦市が目指す過疎化などの地域の課題解決に向けて、市内でのドローン配送実証事業を含む次世代高度技術の活用により、新しい物流のビジネスモデルを構築することにあります。具体的な連携内容は4つあり、「1.ドローンを含む次世代高度技術の活用による農業、観光、産業、経済の振興」、「2.地域雇用、人材教育、人材育成、産業基盤整備」、「3.持続可能な地域交通、物流の確保、住みやすい環境づくり」、「4.地域防災への貢献と新しい社会インフラの整備」です。
過疎自治体である松浦市では、人口減少が進んだことによって、高齢化や空き家の増加、商店や医療機関の減少、公共交通機関の利便性の低下などの問題が起きています。そのため、市にとって地域住民の生活水準を維持することは大きな課題となっています。本連携協定は、このような松浦市が抱える課題の解決を、次世代高度技術の活用によって体現できる取り組みになるだろうと考えています。
松浦市政策企画課 山口 武氏Q.今回、電通九州との協業に当たって期待されていることをお聞かせください。
古橋:電通は広告会社のため多様な消費者のデータをお持ちですし、多面的に消費者を捉えながら仕事をされています。新スマート物流を推進していく中で、電通九州のような幅広い取り組みをされている企業に参画いただくことで、新しいアイデアが生まれるのではないかと期待しています。また、新スマート物流のみならず、地域の課題解決や活性化、さらに今回のようなプロジェクトを九州全体に拡張していく部分でも協業していきたいと考えています。
藤:今回は事業者視点では物流の効率化(中間拠点に荷物を集約後、軽バンによる共同配送・ドローン配送を行う)、また生活者視点では、ドローン配送による買い物支援がメインですが、それだけで松浦市が抱える地域課題を全て解決できるわけではありません。ドローンの活用以外にもわれわれが参画させていただく意義があると思います。具体的には、地域住民に対して今回のような新しい取り組みやサービスをどう浸透させていくかという点と、サービスを拡充していく上で地域の事業者とどう連携できるかという点で、私たちが得意とする広報分野のノウハウを役立てられるはずです。また、古橋さんが話されたように、このようなプロジェクトを九州全体にどう広げていくかというところは従来、私たちが手がけてきた分野のため、お力添えできると自負しています。
株式会社電通九州 藤 賢太郎氏地域防災対策として離島間ドローン配送の活用に期待
Q.今回のプロジェクトにおいて、松浦市という地域ならではの課題には、どのようなものがあるのでしょうか。
古橋:ドローンに関して松浦市特有という点では、やはり離島ということが挙げられます。これまでに関わった地域は基本的に中山間や平野だったため、私たちにとっても、今回の離島間のドローン配送は初の取り組みになります。陸路が使えずフェリーでしか行けない場所というのは、ドローンの有用性が最も高い地域と言えます。
また、海上では風の影響を大きく受けるという地域特性があります。中山間地域でのドローン配送では、風が吹き込む谷ではドローンが飛ばしづらく、山に囲まれている場所ではGPS情報が取得しづらいといった経験がありました。今回は海風の影響など、これまでとは違う外的要因によるドローン飛行の難しさもあり、どういう課題が出てくるのかも含めて、松浦市で離島間ドローン配送のモデルをしっかりと構築したいと思っています。
山口:交通手段としてフェリーがあるといっても、小規模離島では便数が少なく、欠航もあります。つまり災害などの有事の際、本当に孤立してしまう懸念があるわけです。そのため市としては買い物支援だけでなく、有事の際に物流を滞らせないという目的でもドローンを活用できないかと期待しています。実際にNEXT DELIVERYでは、2024年の能登半島での地震や夏の豪雨の際に、孤立集落へ物資をドローン配送した事例もあったので、そのような防災面での活用も非常に有効だと考えています。
離島を有する過疎自治体である長崎県松浦市が抱える地域課題の解決に、ドローンを含む次世代高度技術を活用しようと始まった今回の取り組み。その狙いは、買い物難民支援にとどまらず、地域の農業、観光、産業、経済の振興や雇用、人材教育・育成にもつなげ、さらにはその成果を九州全体に広げようという大きな展望を持つプロジェクトです。後編では、実際に離島間ドローン配送を行った実証実験の結果と課題について聞いていきます。
dentsu Japan(国内電通グループ)では、社会課題の解決に向けて多様なアイデアとソリューションを提供しています。地域課題の解決に悩む自治体や企業の方は、お気軽にお問い合わせください。
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