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2022/04/25

SaaSやサブスクの成功のカギとなるチャーンレート。そこから見えるビジネスのヒントも考察

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現在、多くのSaaSがサブスクリプション方式で提供され、音楽や映像コンテンツ、日用品などさまざまなジャンルのサービスが生まれています。サブスクリプションサービスで収益を出し続けるためには、新規顧客の開拓とともに、チャーンレート(解約率)を下げる工夫が必要です。チャーンレートは売り上げを左右するのはもちろん、顧客の満足度やブランドへの信頼感を測る上でも重要な指標。そこで本記事では、「SaaSやサブスクリプションビジネスにおけるチャーンレート対策は、顧客に中長期的に選ばれるブランド・サービスを実現するためのヒントになり得るか?」をテーマに、チャーンレートを下げるためのポイントや企業・サービスを持続的に成長させる方法について考えます。

チャーンレートから、企業やサービスが抱える課題が分かる

近年、SaaS(Software as a Service:クラウド上でソフトウェアを利用できるサービスのこと)をはじめ、サブスクリプション方式のサービスが広がっています。これまで商品やサービスを利用するためには、購入するときに1回だけ料金を支払う「買い切り型」のサービスが主流でした。一方、サブスクリプションサービスは月単位や年単位などで定額の料金を支払うことで、その期間に製品やサービスを利用できるようにするビジネスモデル。ある程度の期間、継続してサービスを利用してもらうことを想定しているため、1回あたりに支払う費用を安く抑え、長期にわたって利用してもらうことで、利益を上げていくことを目指します。

サブスクリプションサービスが広まった背景には、まずITインフラが普及したことで、SaaSなどのクラウド型サービス、音楽や映像などのデジタルコンテンツの視聴し放題サービスなどが利用しやすくなったことがあるでしょう。また、ユーザーにとっては1回に支払う費用が安いことから気軽に始めやすく、使い勝手が良いところなども評価されています。加えて、商品・サービスを提供する事業者にとっては、人口減少や競合サービスの増加によって新規顧客の獲得が難しくなってくる中で、既存の顧客に自社の商品・サービスを使い続けてもらうことで経営を安定させられるというメリットもあります。

しかし、サブスクリプションサービスによって大きな成功を収める企業がある一方、早期に撤退する企業・サービスも少なくありません。では、自社が提供しているサービスが順調かどうか判断するには、どのような指標を見れば良いのでしょうか。

SaaSやサブスクビジネスの指標として重要な「チャーンレート」

SaaSやサブスクリプションサービスなど、持続契約型サービスの指標としては月々の売り上げや新規顧客獲得数なども見る必要がありますが、より重要なのは「チャーンレート(解約率)」です。前述の通り、持続契約型サービスは、初期の導入コストを抑える代わりに、長く使ってもらうことでコストを回収していくビジネスモデルです。そのため、新規の契約を獲得しても、すぐに解約されてしまうと大きな収益は見込めません。新規顧客が多くても、チャーンレートが高ければ赤字になってしまうことも。そもそも、新規顧客を獲得するためには、広告宣伝費や、問い合わせ対応など多くの手間やコストがかかります。他社との激しい競争の中で新規顧客獲得のためにコストをかけるよりも、既存顧客を維持するために予算を割く方が、コストパフォーマンスが良いというケースも多いでしょう。

また、チャーンレートはブランドやサービスの価値を測るためにも重要な指標の1つ。解約率が高いということは、サービス設計にどこか問題があったり、ユーザーが何らかの不満を抱えていたりすると考えられるためです。

ちなみに、チャーンレートの平均率は、業界や業態にもよりますが一般的に3〜10%程度とされています。どちらかというと、BtoBよりもBtoCサービスの方が解約率が高く、特に高価格帯の商品・サービスは変動が大きいと言われます。中でも教育関連やサブスクリプションボックス(サービス側がセレクトした食料品や日用品などの詰め合わせボックスを定期購入するサービス)、動画配信サービスなどは比較的解約率が高い傾向にあります(※)。

こうした傾向を踏まえた上で、自社のチャーンレートは今どのくらいなのか、もしチャーンレートが高くなっているとしたらその原因はどこにあるのかをしっかりと分析する必要があるでしょう。

チャーンレート改善には、入念なサービス設計と顧客ニーズのくみ上げが重要

では、チャーンレートを下げるためにはどうすれば良いのか、よくある解約理由や失敗事例などをもとに考察してみましょう。

チャーンレートが上昇した例

まずは、過去にチャーンレートが上がってしまったという企業・サービスの事例を紹介します。

事例1:入札情報提供サービス
1つ目は、官公庁や公的機関などの入札案件の情報を提供するサービスの事例です。このサービスの提供企業では、サービスが軌道に乗るまで、まず「契約数」を追う戦略を取っていました。その結果、新規契約数は増やせたものの、チャーンレートが上昇。その原因は、契約後や更新時のフォロー不足だったといいます。その後、チーム編成やKPIを見直し、丁寧なフォローを行うことでチャーンレートを抑えることに成功しました。

事例2:衛星放送サービス
ある衛星放送サービスでは、無料視聴期間などを設けた上で、気軽に解約できる仕組みをつくり新規加入のハードルを下げた結果、「無料視聴期間が終わったら解約しよう」と考える顧客を増やしてしまったことがありました。そこで、解約のタイミングでコールセンターのオペレーターによる案内を実施。どの顧客にも一律の対応を行うのではなく、顧客の解約理由やそれぞれの加入時期、加入動機などから潜在ニーズを予測し、「あなたが好きなこんなコンテンツが配信されますよ」といった顧客に寄り添った提案をすることでチャーンレートの改善に至ったそうです。

これらの事例から分かるように、チャーンレートを下げるためには、消費者に選んでもらえるようなサービス設計や体制を整えることが重要だと考えられます。

解約理由で多いのは「サービスが顧客のニーズに合っていない」

また、いくら良いサービスであっても、顧客のニーズと合致していない、もしくは顧客にサービスの魅力が伝わっていなければ、チャーンレートが上昇してしまうこともあります。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「サブスクリプション・サービスの利用状況に関するアンケート調査」(2019年12月)では、サブスクリプションサービスの解約経験がある人は50%以上。その理由は、気軽に始められる分、より優れたサービスがあれば乗り換える人も多いためだと考えられます。また、利用する上で困った点としては、「使いきれなかった」「自分に合った商品やサービスがあまり提供されなかった」などを挙げる人が目立ちます。これは、サービスがユーザーに合っていなかったり、内容が正しく伝わっていなかったりしたためではないでしょうか。つまり、顧客を分析して潜在ニーズをくみ上げ、それに応じたコミュニケーションを行うことが重要なポイントと言えるでしょう。

チャーンレートの改善策はSaaS・サブスクだけでなく、あらゆるビジネスのヒントとなる

前述の通り、チャーンレートの改善には入念なサービス設計や、顧客の潜在ニーズをくみ上げるようなコミュニケーションが重要です。その上で、次々と新しいサービスが生まれる中、これからも選ばれ続ける企業・サービスになるためにはどうすれば良いのでしょうか。 そのポイントを最近のSaaS・サブスクリプションサービスの成功事例から考察します。

まず、AIを活用した行動データの分析を導入することで、サービス・商品の差別化に成功した事例を2つ紹介します。

事例1:好みに応じたお菓子を届けるサービス
このサービスでは、ユーザー1人ひとりにパーソナライズしたお菓子を届けるために、AIを導入。これにより、ユーザーの好みやリクエストに合わせて毎回異なるお菓子を自動的にセレクトできるようになりました。企業側にとっては、業務効率化を実現し、欠品や過剰在庫のリスクを減らすというメリットも生まれました。

事例2:データ解析・統計分析ソリューション
デジタルマーケティングなどにも活用されている世界的に有名なデータ解析や統計分析のソフトウェアサービスでは、近年AIや機械学習を活用して、パーソナライズ精度を向上させる施策を行っています。AIによる自動学習で各顧客のデジタル上の行動データの蓄積や分析、予測を行い、ターゲットに合わせて適切な広告配信、クリエイティブの選定を実施。こうしたソリューションを活用することで、パーソナライズ精度を上げてターゲットとマッチしたマーケティングを行うことができます。

上記のように、1人ひとりの好みやニーズにより寄り添った「パーソナライズ」は、サブスクリプションサービスの差別化のポイントになるでしょう。顧客と中長期的に関係性を築くサブスクリプションサービスだからこそ、そのやり取りの中で顧客に関するさまざまなデータを蓄積していくこともできます。

さらに、同じような商品やサービスが乱立し、その内容が均一化していく中では、ブランドや企業に対するロイヤルティ(信頼や愛着)も、選ばれる理由として重要になってくるのではないでしょうか。商品やサービスの機能面だけをアピールするのではなく、そのブランドが社会にどのような価値をもたらしているのか、どのような姿勢で事業に取り組んでいるのかといった理念や姿勢などをPRすることは、ブランドや企業へ共感するファンの創出につながります。そうすれば、より継続的な購買や、口コミなどによるさらなるファンの増加も期待できるでしょう。

これは、SaaSやサブスクリプションサービスに限った話ではありません。近年はテクノロジーの進化や各種インフラの整備により、さまざまな分野で商品・サービスの均質化が進んでいます。パーソナライズやロイヤルティによって競合との差別化を図ることは、チャーンレート対策だけではなく、ユーザーから選ばれるブランド・サービスを実現するために、あらゆるビジネスで応用できる考え方ではないでしょうか。

 

SaaSやサブスクリプションサービスにおいて、チャーンレートはサービスやブランドがユーザーに評価されているかどうかを判断するための重要な指標となります。チャーンレートを上げないためには、サービス設計を入念に行うこと、顧客のニーズをくみ上げることがポイント。さらに、その上でブランドやサービスの差別化を行うには、パーソナライズやロイヤルティの考え方も重要です。

 

※出典:Churn Analysis(Recurly inc./2018年調査)

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Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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