プロモーションやマーケティングなど、企業と顧客間のコミュニケーションツールとして重要性が高まっているLINE。企業のSNS運用支援において、数々の実績がある株式会社電通デジタルの荻野好美氏に、企業のLINE運用について解説いただく記事の後編をお届けします。
今回は、マーケティングにおいてここ数年で変化しているLINEの重要性や、LINEにおける「友だち」の捉え方、また運用する企業側に必要な心構えなど、さらに踏み込んだお話を聞いていきます。「このままLINE運用を続けるべきなのか」と悩んでいる方や、導入にあたって「LINEでの発信にリスクはないのか」と不安を抱えている方などのヒントが見つかるかもしれません。
「プッシュ型」であるがゆえに、ブロックされないよう注意が必要

Q.荻野さんは現場の最前線で企業のLINE運用をサポートされていますが、ここ数年、マーケティング活動の中でLINEの重要性は高くなっていると感じていますか?
荻野:LINEが重要になっているかと聞かれたら、間違いなくイエスですね。LINEのポテンシャルを発揮できる場というのは明らかに増えていますし、その背景にはコロナ禍の影響も少なからずあります。例えば、コスメやアパレルなどの実店舗を持つ企業では、LINEに来店予約機能を持たせるなど、LINEの使い方の幅がここ1~2年でグッと広がっている印象を受けます。
デジタル会員証やポイントシステムに対応した「LINEミニアプリ」で提供されている機能を導入する企業も増えています。LINEミニアプリとは会員証・注文・予約・受付などのあらゆるサービスをLINE上で提供可能にするプラットフォームです。これを活用することで、例えば店舗にQRコードを設置しておいて、ユーザーがスマートフォンでピッと読み込むと簡単に会員登録できたり、ユーザーの任意選択ではありますが、LINE公式アカウントの友だちにもスムーズに追加したりすることができます。
LINEは生活に欠かせないプラットフォームにどんどんなってきているので、企業が新たにユーザーと接点を持ちたいと考えたときに、LINEという窓口はユーザーの日常にもすっと入っていきやすい。これも他のSNSにはない、LINEならではの大きな強みかなと思います。LINEは多くの人が日常で一番よく使っているアプリの1つだと思いますので。
Q.LINEをSNSとして捉えたときに、運用負荷や炎上リスクなども気になるところではあります。逆にLINE運用の際の注意点などはありますか?
荻野:炎上リスクでいうと、意図しないコンテンツを世に出してしまったり、ユーザーに発信側の意図を勘違いされてしまったりというようなケースは、もちろん考えられます。しかし、それはLINEならではというより、ブランドとして何かを発信しようとする限り、常につきまとう課題なのかもしれません。
LINEならではの必要な配慮があるとしたら、他のSNSと比べてプッシュ型の要素が強いという点が挙げられるのではないでしょうか。開封率が高くリーチ力も強い反面、ユーザーにとってLINEのメッセージはノイズに捉えられてしまう可能性が高い側面もあるので、そこは要注意です。LINEは一度ブロックされてしまうと、再度友だちになってもらわないとどんなメッセージを発信しても届かなくなってしまいますからね。
プッシュ型でユーザーにリーチしやすいがゆえに「誰に対して、いつ配信するか?」という戦略は非常に重要になってきます。ですから、ユーザーを理解し、収集したデータをしっかり分析した上で、日々の運用を最適化していく努力が大切なのです。
また、自社の課題や目的が把握できていない状態で「とにかくみんなやっているからLINEを始めよう!」というような、手段が目的化してしまっているようなケースは、運用後に目的を見失い、すぐ終了してしまうことが多いので、できるだけ避けた方がいいですね。
信頼度の高い関係性を築くために、長期的な目線で運用改善を
Q.導入企業側としては「LINEを始めたら売上がアップするかも……」というような期待感もあると思いますが、実際、LINEは売上にも貢献できるツールなのでしょうか?
荻野:もちろん、売上に貢献できる側面も大きいですが、LINEを始めればすぐに急激な売上アップにつながるというようなことは、なかなか難しいかもしれません。それよりも、長期的な売上や顧客を育てていく可能性を見込んで導入した方がよいと思います。短期的視点のみにとらわれず、今後を見据えた顧客とのタッチポイント拡大や、将来的な販売チャネルの拡大など、長期的な視野で導入を検討することもLINE運用においては大事だと思います。
売上改善につなげようと思ったら、細かな運用改善や定点観測を行って、地道に泥くさくPDCAサイクルを回していく姿勢も大切です。もちろん失敗もあるとは思いますが、それをネガティブに捉えるのではなく、「うまくいかない方法を発見できた」とポジティブな視点に転換して、改善を繰り返しています。
ある外食業のLINE公式アカウントの運用をお手伝いした際、開設当初と比べてLINE経由の売上を47倍に伸ばすことができました。成功要因としては、前編でもお話した「LINEのIDと会員情報の連携」による商品注文時のフリクションレスな体験提供と、日々の地道な配信クリエーティブの改善による購入モチベーションの醸成が挙げられます。購入や問い合わせへユーザーを誘導する文言を細かく変更したり、CTAの位置や訴求する食品は、1人向けか大人数向けかでどのような違いが出るか日々検証したりと、小さな改善を企業さまと一緒に繰り返したことで、飛躍的な売上アップに成功した好例です。
ここでも強調しておきたいのは、「友だち」の存在。他のSNSの場合は、フォロワーが少なくても、一回バズったら、ドカーンと多くのユーザーにリーチさせることも不可能ではありません。しかし、LINEの場合は短期的なバズではなく、「友だち」との関係性が何よりも重要なのです。
ここがLINEの「友だち」と他のSNSの「フォロワー」との考え方が異なるところで、LINEの場合は単純な「友だち」数ももちろん大事ですが、何より重要なのは「ブロックされていない友だち」です。これがLINEにおける「ターゲットリーチ」という言葉の意味です。関係性が深くて濃いか、本当に自社ブランドを好きでいてくれるか、そんな「友だち(ターゲットリーチ)」をいかに増やせるかが、LINE運用の成功を握るカギだと思います。
Q.最後に、企業のLINE運用を行う担当者の方が心得ておくべきポイントや、荻野さんなりのアドバイスがあれば教えてください。
荻野:私自身、前職のファッション関連の企業でSNS運用を担当していましたが、社内の情報がなかなか集まらず、投稿するネタに困ることが何度もありました。各部署から仲間を集めるなど全社的プロジェクトとして推進しないと、担当者が孤立しがちというのは、この記事を読んでくださっているSNSご担当者の多くがうなずくところではないかと思います。さらに、コンテンツを発信するときにブランディングと売上、どちらを重視するかで部署間で衝突が起きてしまうことも。
LINEをはじめとしたSNS運用を円滑に行うためには、社内の連携は本当に大事です。社内で「何のためにLINEをやるのか?」といった解像度の高い目的を擦り合わせた上で、各部署に担当者を配置するなど、目標達成に向けた仲間づくりが欠かせないな、と感じています。これは自分自身の経験はもちろん、さまざまな企業さまと接してきた中で、強く実感していることの1つでもありますね。
「目的が明確ではない」「社内の認識の擦り合わせに苦労している」というお悩みに対しては、クライアント社内向けのワークショップを設計・実施するなどのサポートも弊社では行っています。「マーケティング課題」だけでなく、企業さまのあらゆる課題解決に向けて、伴走させていただいています。
LINEでは短期的なバズではなく、容易にブロックされないような「友だちとのより深い関係性」が重要だと語る荻野氏。また運用する企業側も、自社の課題を把握し、長期的な目線で顧客と関係性を育てていくという姿勢で臨めるかどうかがカギとなるようです。LINE活用を通じてお客さまとさらに一歩踏み込んだコミュニケーションを目指すのなら、この2点を踏まえてLINE運用の戦略を練ってみてはいかがでしょうか。