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2022/09/26

ソーシャル・イノベーターに聞く「NEXT社会課題」対談相手:国連UNHCR協会 広報・渉外チーム 島田祐子氏

INDEX

株式会社電通PRコンサルティングのZ世代社員が、ソーシャル・イノベーターとともにNEXT社会課題を発見し、企業連携で解決する方法を探っていく連載、「NEXT社会課題」。

今回は、国際連合の難民支援機関である「UNHCR(ユーエヌエイチシーアール)(国連難民高等弁務官事務所)」の活動を支える日本の公式窓口である国連UNHCR協会の広報・渉外チームの島田祐子氏へインタビュー。ウクライナ侵攻を機に関心も高まった「難民支援」の現状、民間企業による難民支援の事例、支援企業に集まるZ世代の関心について、そして島田氏が感じられているNEXT社会課題についてもお話しいただきました。

難民支援には民間セクターの協力が必須。1円でも多くのお金、支援を集めるのが国連UNHCR協会の使命

Q.今日は、お時間いただきありがとうございます。最初に、国際連合の「UNHCR」と「国連UNHCR協会」の関係性について伺えますか?

島田:国連UNHCR協会は、国際連合の難民支援機関である「UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)」の活動を支える、日本の公式支援窓口です。

UNHCRは、第2次世界大戦後、他国に避難を強いられていた方の帰還を支援するために設立されました。当初は、3年間の設置予定でしたが、その後も難民(※1)問題解決とはならず、現在も、135カ国で活動を拡大している状況です。

UNHCRの活動資金は、各国政府からの任意の拠出金(税金)が多くを占めていますが、もっと広く、民間からも支えていこうという機運が世界的に高まって設立されたのが「国連UNHCR協会」です。日本では2000年に設立され、日本の民間セクター(民間企業や個人、メディアや宗教法人などの団体)の皆さまに協力を呼び掛けています。

Q.「民間の力」を、難民支援に届けるための窓口が、島田さんのいらっしゃる国連UNHCR協会なんですね。現在、民間セクターに対してどのような活動をされていますか?

島田:個人・企業・団体の皆さまに、難民支援の重要性を伝えると同時に、寄付を募っています。また、難民問題について考え、理解し、行動していただける方を1人でも増やすため、難民支援への共感の輪を広げるイベントや、企業や学校などへの講演活動なども積極的に行っています。2021年は61億2212万円の寄付金をお預かりしましたが、そのうち民間企業の寄付金額割合は4.5%でした。その割合を少しでも増やし、難民支援の資金不足を補っていきたいです。

Q.差し支えなければ、島田さんが協会へ参加することになったきっかけを教えていただけますか?

島田:「私は、何のために働くのか」という疑問に答えられる仕事だと直感したことと、国連UNHCR協会設立にも大きく関わられた緒方貞子さん(第8代国連難民高等弁務官)の著書を読み、国際連合関係の仕事をしたいという想いからです。協会で働くまでは、外資系企業で企業の合併や買収、税務助言などの分野に関わっていたんです。すると、ある方から「あなたの仕事は、お金持ちをもっとお金持ちにする仕事なんだね」という言葉を掛けられ、ハッとしました。毎日、身を削って働いた成果がそれでいいの? と疑問が湧き、転職を決めました。

私の主な仕事は、日本の民間セクターに難民支援を呼び掛け、1円でも多くのお金、必要な支援を難民支援の現場へ届けること。明確な使命に基づいて働けることは幸せです。

緊急事態で高まる難民支援への注目。現場で求められるのは、難民の暮らしに寄り添う「現金給付支援」

Q.ウクライナ侵攻によって、かつてないほど難民支援に対する注目が集まったと伺いました。

島田:おっしゃる通りで、ウクライナ侵攻によって協会には問い合わせが殺到しました。日本の隣に位置するロシアの軍事侵攻に対して、日本の皆さまが感じられた脅威、自分たちと大差ない水準のウクライナ国民の暮らしが、一夜にして混乱に陥ったことで受けた衝撃。そうして引き起こされた感情が、寄付という行動に直結したのには驚きました。ウクライナ内外で避難を強いられている人々の存在が明らかになった時に、国内メディアで大規模に報じられたこともあり、いつも寄付してくださる方に加え、普段、寄付をしないという方が何かしなければいけない、と動かれたのは大きかったと思います。

Q.個人だけでなく、民間企業からの支援もこれまで以上に集まったのでしょうか。

島田:そうですね。難民支援という社会課題には、政治的・宗教的な要素が関係することも多く、そのため難民問題が発生しても、それを支援するか否かは各企業の考えに任されている面がありました。今回、特徴的だったのは、経済団体レベルでウクライナ支援の呼び掛けをしていただけたことです。それによって企業支援の大きな流れができて、数多くの寄付のお申し出を頂く結果になりました。多くの民間企業が、経営面でロシア、ウクライナと深い関係性を持っていたことも一因だと思います。

Q.支援にはさまざまな形が考えられそうですが、民間企業の支援は、どのような形が望ましいでしょうか。

島田:やはり支援現場のニーズに柔軟に、迅速に対応ができる資金援助(寄付金)を優先させていただいています。近年は難民支援の現場でも、物資での支援だけでなく、現金給付支援が重視されています。その理由は、備蓄・輸送が必要な物資と比べて迅速に給付できること、そして支援の受け手がそれぞれのニーズに合わせて柔軟に支援の使い道を決められることです。また、各国政府からの拠出は使途が細かく指定されることが多いのですが、民間からの資金援助は対象地域や期間、目的を緩やかに設定できることが多く、必要なところにスピーディーに支援を届けられるんです。

企業の社会貢献が本物かを、Z世代は見極めている。Z世代の関心も高い「難民支援」へ踏み出す企業を増やしたい

Q.難民支援というと、テントや調理器具、食糧といった現物支援が必要なのだと思っていました。

島田:もちろん、本業を通じた支援というのも素晴らしい支援になります。40年以上、難民の方の検眼をして1人ひとりに合った眼鏡を自費で届けてこられた「株式会社富士メガネ」さんなど、民間企業の多様な支援で難民の方々の暮らしが支えられています。

支援を決断された金井(昭雄)会長のお話で忘れられないエピソードがあります。難民となったご婦人に眼鏡を贈ったところ、「おかげで、亡くなった息子の写真を毎日見つめられます」と涙を流して喜ばれたそうです。ご子息を亡くした悲しみは想像し得ませんが、富士メガネさんは、ご婦人に生きる力をプレゼントされたのだと感じます。

Q.素晴らしい支援を、長年にわたって継続されていることに心を動かされますね。多くの民間企業と連携してこられた国連UNHCR協会として、企業担当者の方にお伝えしたいことはありますか?

島田:国連UNHCR協会と連携して「難民支援を行っている」という事実が、優秀な人材へのアピールになるという経営者の声を多数いただいています。いわゆるZ世代は、社会のために本気で行動している会社なのか、SDGsの目標達成を掲げながらもポーズにとどまっている会社なのかをクールに見定めています。

特に、経営者自身が「難民支援に力を入れている理由」を言語化できていると、大きなアピールになるはずです。例えば、事業でつながりのある国への寄付や、従業員の故郷への支援によって、企業の信念や個性も表現できます。業務スキルを生かしたプロボノ活動に力を入れている企業も、少しずつ増えている印象です。

Q.確かに「エシカル就活」という言葉も、Z世代には認知されています。

島田:Z世代の多くは、社会課題について知ることと、アクションすることの距離が近い印象です。困っている人に手を差し伸べるのは当たり前。社会人として収入を得られるようになったから、寄付という形で手を差し伸べるという若い支援者の自然な姿勢にハッとさせられます。

難民支援の輪を広げ、「困難に立ち向かう民」も、支援側も、希望を持って生きていける社会に

Q.島田さんが活動される中で感じている「NEXT社会課題」はどんなものでしょうか。

島田:今一番感じているのは「#“寄付して満足”問題」です。

私たちが目指しているのは、難民と受け入れ社会の双方が潤う形です。難民を受け入れた社会がそのことで疲弊し、分断や争いが起きてはなりません。難民を受け入れたからこそ地域経済が活性化したり、コミュニティーのインフラが整ったりといったポジティブな変化があってほしい。例えば、グローバル企業のIKEA社は、ヨルダンやエチオピアに太陽光発電所やかんがい施設を建設し、地域の暮らしの質を高め、難民だけではなく受け入れ側の市民も雇用し、地域全体が潤う仕組みをつくっています。

また、難民を雇用した日本企業にもポジティブな変化があるそうです。異文化の環境を乗り越えて熱心に働く難民を支えようと、職場のモチベーションが高まっていると耳にしました。難民は、「困難に立ち向かい、生き抜く意思を持つ民」。彼らが、時に厳しい社会を生き抜くロールモデルとなることは想像に難くありません。今後も、支援してくださる民間企業も潤うような支援方法を模索できたらと思っています。

Q.双方が潤う支援というのは、持続可能な支援と言えそうですね。では、もう1つの問題を挙げていただけますか?

島田:「#強い光と影問題」も、これから解決したい問題です。

現在、ウクライナ侵攻で発生した難民問題に強く光が当たり、他の地域の難民危機・人道危機が隠れてしまう「認知のゆがみ」が起きています。私たちの課題は、ウクライナ侵攻を機に難民支援に関心を持ってくださった方とつながりを深め、他地域の難民の現状も知っていただき、支援の輪を広げていくことです。

支援の輪を広げる活動の一環として、2022年6月19日には、国連UNHCR協会主催のライブイベント「UNHCR WILL2LIVE Music 2022」が開かれました。6月20日の「世界難民の日」の前日に開催した特別配信で、音楽を通じて難民の生き抜くチカラを発信し、日本中に共感と支援の輪を広げることを目指したものです。

また、UNHCR駐日事務所では、さまざまなセクターを超えて対話を重ね、日本社会が難民支援のためにできることを考える「マルチステークホルダー勉強会」を実施しています。難民の自立、雇用といったテーマについて対話する中で、民間企業同士の連携も生まれていけばと思っています。

Q.ウクライナ侵攻で集まった難民支援への関心を、他地域への支援、そして継続的な支援につなげたいですね。

島田:本当にそうですね。最後に、私たちの歩む道を照らす、緒方貞子さんの言葉を紹介させてください。

「文化、宗教、信念が異なろうと、大切なのは苦しむ人々の命を救うこと。自分の国だけの平和はありえない」。

今回のウクライナ侵攻で、世界はつながっていて、日本だけ平和でいられる保証はないと感じた方もいらっしゃると思います。世界から難民がいなくなる未来を描きながら、これからも民間企業や個人の皆さまとの連携を強めて難民支援に向かいたいです。

 


 

インタビューを通して、長きにわたって難民支援を続ける島田氏自身の揺るぎないパーパスを感じました。島田氏のように、企業と個人それぞれのパーパスが重なり合うところに、社会課題解決の糸口があるのかもしれません。

また、インタビュー内では、ライフワークとして難民支援に関わっている企業経営層のお話も伺い、どの方にもその人なりのストーリーがあると気付かされました。企業活動は、取り組む人の想いやロマンが加わることで、「らしさ」が出る場になります。そういった「その企業らしい社会課題へのアクション」を通してパーパスを感じると、敏感なZ世代へもその企業が魅力的に映るのではないでしょうか。

社会課題とアクションの距離が近い若者に乗り遅れないために、企業らしさを大切にしつつ、単発で終わらせないためのサステナビリティ・ブランディングが重要である、と今回のインタビューで再認識しました。

 

※1 「難民」の定義:人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々

 

※2022年6月14日電通PRコンサルティングコーポレートサイトにて公開された記事を一部加筆・修正し、掲載しております。

この記事の企業サイトを見る
株式会社 電通PRコンサルティング

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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