「オルタナティブデータ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?AIや機械学習によるビッグデータの活用は幅広い分野で進んでいますが、金融業界も例外ではありません。海外を中心に投資家や金融機関が投資判断にビッグデータを使うことも増えており、こうした新しいタイプのデータを総称して「オルタナティブデータ」と呼んでいます。
2022年6月には、国内でもオルタナティブデータを用いた企業や団体のDXについて、各分野の専門家が語るイベント「オルタナティブデータ マーケEXPO」が開催されるなど、国内外で注目が高まっています。
そこで、本記事ではオルタナティブデータの現在と未来に注目。「検索データやSNS投稿を用いたオルタナティブデータは、企業価値を測る重要なツールとなるか?」というテーマで、データ活用の可能性を探っていきます。「ビッグデータ活用のヒントを知りたい」「データ分析をブランディングに役立てたい」という方は、参考にしてみてください。
新しい時代の経済指標、「オルタナティブデータ」とは?
機械学習や自然言語処理によるビッグデータの収集・分析が進展するにつれ、最近はさまざまなデータを比較的容易に入手できるようになりました。売上情報や決算情報など各企業が保有するデータはもちろん、気象情報やSNSの投稿、衛星写真に至るまであらゆるデータに利用価値が認められ、現状把握や市場予測、傾向分析などに活用されています。例えば気象情報は、以前の記事でもご紹介したように「ウェザーマーチャンダイジング」として、既にビジネスや広告戦略に取り入れられています。
その一方で、これまで主に金融領域で長く活用されてきた経済の統計情報や企業の財務情報などは、伝統的に用いられてきたという意味から「トラディショナルデータ」と呼ばれます。「オルタナティブデータ」とは、この「トラディショナルデータ」と区別するための名称で、近年新たに利用できるようになったビッグデータのこと。これまで投資判断などの分析に使われることが少なかった各種データを活用できるようになったことで、金融機関や投資家から熱い注目を集めています。世界各国の中央銀行でも活用が進むとともに、マーケットリサーチなど金融業界以外でも広く使われるようになってきました。
オルタナティブデータが注目されている背景として、トラディショナルデータよりも「速報性」に優れている点がまず挙げられます。社会的なトレンドを知るのならSNSの投稿、より細かいターゲティングを設定するのならPOSデータやクレジットカード利用情報などが有効です。また新型コロナウイルス感染症の流行のように、刻一刻と社会情勢が変化する状況においても、リアルタイムの情報が強く求められるようになってきています。
トラディショナルデータはこうした即時性に乏しいのが難点と言えるでしょう。幅広く活用されているGDPでさえ四半期に1度の発表であり、各四半期末から1カ月半もの期間を経てから公表されます。また一部の消費統計では、収集過程でサンプルのバイアスが生じたり、ECサイトなどの新興業態を十分に取り込めていなかったりなど、データの網羅性や精度を疑問視する声が挙がっています。
検索やSNSの情報が、オルタナティブデータとして広く活用されるように
ここからは、トラディショナルデータとの違いを確認しながら、オルタナティブデータについてより詳しく見ていきましょう。

オルタナティブデータが速報性に優れ、情報の粒度もその多くが個人単位と細かいのに対し、トラディショナルデータは数カ月〜数年に1回の公開で、情報の粒度も都道府県別・月別など大まかになりやすいという違いがあります。しかし一方で、オルタナティブデータはデータの蓄積が短い分、偏りが生まれやすいのに対し、トラディショナルデータはデータを長く蓄積できるため、偏りが生まれにくいという利点もあります。
最も身近なオルタナティブデータの例としては、検索データやSNSの投稿が挙げられるでしょう。検索ワードやSNSの投稿はリアルタイム性の高いトレンド情報が得られる重要な情報源であり、出現頻度の高いキーワードから、一般の消費者がどのようなことに関心を持っているかを知ることができます。オルタナティブデータを上手に活用すれば、情報の粒度、すなわち情報の解像度を上げることができるのです。
そうした強みを生かすべく、日本銀行ではGDP予測モデルの作成にオルタナティブデータを採用。検索ボリュームから人々のニーズの動向を把握できるGoogle TrendsやPOSデータを用いた小売販売額指標を組み込んで、短期的な経済変動の把握を行っています。
検索データやSNSの投稿は、実店舗におけるPOSデータなどと異なり、一部の業態や業種に限定した情報ではないため、横断的なデータを取得できることも大きなメリットです。ECサイトなどオンラインでの消費、映画館や遊園地などでのサービス消費も含めた幅広い消費動向を捉えることができるので、企業評価の指針として適していると考えられています。
オルタナティブデータは、企業活動や企業価値向上に何をもたらすか

これまでの内容を踏まえ、ここからは、オルタナティブデータが今後、企業の経済活動や企業価値の向上にどういった影響を与えるのかを考えていきましょう。
まず、金融領域を中心に経済分析の在り方を変えつつあるオルタナティブデータは、今後、ビッグデータを保有する事業者にもビジネスチャンスをもたらすでしょう。その一例として、2つの事例をご紹介します。
事例1:証券会社と携帯通信会社による新宿シニア層の調査
2020年、証券会社が携帯通信会社と協力し、利用者の携帯端末の位置情報を取得して新宿エリアの来街者数を調べた結果、60歳以上の減少が明らかに。当該データをマクロ経済分析に活用したところ、新型コロナウイルス感染症のリスクを警戒してシニア層が外出を控えていることが推測されました。こうしたデータは経済活動全体の動向を把握し、その後の消費行動の予測などに役立てられます。
事例2:自動車メーカーによる工場稼働状況の把握
ある自動車メーカーでは、作業員の携帯電話の位置情報から工場の稼働状況を把握したり、工場を衛星データでモニタリングしたりすることで、生産を最適化する試みがなされています。取得データから生産活動を分析することで、業務効率化だけでなく事業予測も立てることが可能になりました。
これらの事例は、消費者の行動変化や企業の生産活動の分析にオルタナティブデータを活用した好例と言えます。このことからも分かるように、これまで売上予測などのマーケティング目的で行われてきた各種データの分析は、今後、より大きな経済分析にひも付く新たな試みへとスケールアップしていける可能性を秘めています。
加えて、オルタナティブデータが市場動向把握のための指針として浸透すれば、その企業にまつわる関心事、話題の質や量が企業価値そのものに大きな影響をもたらすようになるでしょう。特に、一般消費者によるインターネット上での口コミやSNSでの言及などは、現在の企業価値を把握する重要な指標になると予想されます。さらに、事業者は消費者などのステークホルダーからどのように見られているかだけでなく、調査機関からの見え方を意識することも併せて必要になるかもしれません。
皆さんは日ごろ、自社にまつわる検索状況やSNSでの言及について、どれくらい関心をお持ちでしょうか。これからの時代、企業が持続的に価値を向上させていくには、自社事業の成長に力を尽くす一方で、自社が社会にどのように評価されているのか、第三者の目線に立って客観視する姿勢も重要になるのではないでしょうか。「競合他社と比較して、自社はどれくらい検索されているか?」「自社についてどんなSNS投稿がなされているか?」そういった視点からオルタナティブデータを積極活用していくことで、事業の発展の方向性やブランド価値向上のヒントが見えてくるかもしれません。
これまで金融領域で広く使われてきたトラディショナルデータに対し、それ以外の情報を意味する言葉として生まれたオルタナティブデータ。特に検索ワードやSNSの投稿は、頻度や速報性に優れ、個人を単位とする粒度の高いオルタナティブデータであることを見てきました。オルタナティブデータを上手に活用することで、第三者の評価と自社の現在地を把握し、企業価値向上に役立てる――。近い将来、それが当たり前の時代がやってくるかもしれません。
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