さまざまなSNSが登場する中で、企業はそれらの多種多様なメディアを適切に使い分けることが求められています。例えばTwitter。SNSの中では比較的歴史が長く、多くの人が知る代表的な存在ですが、新しいSNSも増える中で、今この時代にTwitterを企業マーケティングに使う理由はどこにあるのでしょうか。「Twitter以外のSNSでもいいのでは?」「Twitterでなければダメな理由はあるのか」という疑問を抱く担当者も少なくないかもしれません。
そこでTwitterをはじめ、企業のSNSプランニングを手がけてきた株式会社電通デジタルの崔廷銀氏に、企業のTwitter運用におけるポイントを聞きました。「改めてTwitterを有効活用するやり方を学びたい」方や「今さらTwitterについて聞けなくて困っている」という方もぜひ参考にしてみてください。前後編の2回に分けてお送りします。
多様化の中で「特定のコミュニティ」にリーチできるのはTwitterのメリット

Q.昨今さまざまなSNSが存在していますが、企業マーティングの領域において、Twitterは何をするのに適していると思いますか?
崔:「世の中ゴト」を作るのに一番適したメディアだと考えています。「世の中ゴト」というのは、世の中での「話題化」や「トレンド」に繋がる事象のことです。今の世の中で話題化や流行を狙う、あるいは、短期的に「この話題を世の中に広めたい」というときに、Twitterは非常に向いているのではないでしょうか。朝の情報番組やニュース等で「Twitterで話題の……」とTwitterを起点にした話題が取り上げられることが、分かりやすい一例でしょう。
なぜ「世の中ゴト」を作りやすいかというと、その理由はTwitterが持つ「広い利用者層」と「気軽なコミュニケーション構造」ですね。例えばTikTokは、コミュニケーション構造は気軽でも、利用層が若年層に寄っていて、影響力の強い世代がやや限られている傾向が見られます。Twitterはより幅広い世代のユーザーがおり、かつ気軽にコミュニケーションを取れる環境になっているので「共感に繋がりやすい話題」が活発に生まれ、積極的に消費されるんです。
あと、短期的な話題作りだけでなく、長期的にユーザーとエンゲージメントを高めることにもTwitterは向いていますね。アカウントを運用する中で、継続的にユーザーとコンタクトを取り、関係性を深めていくこともTwitterの重要な役割になっていると思います。
Q.それでは、企業がTwitterを運用する際の「メリット」や「使い勝手の良さ」はどんなところでしょうか?
崔:他のSNSと比べて比較的低予算でも始めやすいのはメリットではないでしょうか。例えばあるSNSでは、完全に独自のアルゴリズムに基づいて運用されているため、多くの人に投稿を見てもらうためには、広告の枠を購入するか、あるいは、インフルエンサーと組んで投稿を拡散するなど、ある程度の予算を割く必要があります。それに比べて、Twitterはツイート内容やタイミングなどの工夫次第で、あまり予算をかけなくても拡散できるチャンスがある。テキストをベースにしたコミュニケーションが主流なので、画像や動画制作等の費用のボリューム感を調整しやすいことも利点ですね。
Twitterのもう1つのメリットとしては、企業側がデータを活用しやすいということもあります。例えば、ユーザーがツイートしたキーワードに対してターゲティングできるので、特定の言葉をツイートした人に広告を配信することができる。競合企業のアカウントや、似たテーマのツイートをしているアカウントをフォローしている人に対して広告を当てることも可能です。Twitterはアカウントの個人情報をあまり保有していないので、年齢や性別といったデモグラフィック(人口統計学的属性)の分析には向いていないのですが、その人の趣味・嗜好や関心を分析して効果的な広告配信などにつなげるには適しており、よりターゲットの趣向や行動原理にマッチした広告配信ができるメディアかと思います。
価値観の多様化が進む中で、以前のように世代などを問わず、幅広く「バズる」というケースは少なくなっていくでしょう。となると、特定のターゲットやユーザーコミュニティに対して響く話題を届けていくことが大切。そこで、Twitterの趣味・趣向をベースにしたターゲティングが有効になるわけです。今後は、仮に同じ商材でも複数のアカウントを持ち、ママに響くアカウント、パパに響くアカウント……とアカウントを細分化するパターンも多くなると思います。個人ユーザーが複数のアカウントを持つように、企業も複数のアカウントを運用し、より細分化したコミュニケーションを実施するケースが増えるのではないでしょうか。
ターゲット層をTwitterでどう刺激するか、親和性や文脈を考えて設計を
Q.アカウント運用の話もありましたが、企業がTwitterを始めるにあたり、準備すべきことは何でしょうか?
崔:いろいろありますが、最も大切なのは最終的に何をやりたいのかという「KGI(重要目標達成指標)」と、狙うべき「ターゲット層」を明確にしておくことです。この両方のつながりを考えて運用することが重要だと思いますね。例えばここ数年、Twitter運用のKGIとして「売上アップ」を掲げる企業が多くなっていますが、大切なのは、その売上が誰から形成されるか、ターゲット層とのつながりをイメージすることです。そのターゲット層をTwitterで効果的に刺激できるなら良いのですが、場合によってはInstagramやLINEの方が良い場合もあります。「Twitterを使う」という方法ありきではなく、ターゲット層とTwitterの親和性や、どんなコミュニケーションを行うべきなのかという文脈まで考えた上で運用することが大切なのではないでしょうか。
Q.TwitterのKGIとして「売上アップ」を掲げる企業が多いという話がありましたが、その場合はどのように実現していくのでしょうか?
崔:もちろんTwitterによって売上を上げるのは簡単ではありません。ただ、Twitterはシンプルなメディアですが、その中で活用できる手段がここ数年で増えています。以前なら「Twitterでは認知を得ましょう」という目的にとどまりがちでしたが、最近は、例えばサードパーティ企業がTwitter上での体験をよりリッチにしたり、Twitterの中にチャットボット機能をはめ込めるようになったり。まだ実現には至っていませんが、Twitter内にショッピング機能が導入されることも、遠くないかと思います。単純にツイートを見て終わるだけではない、体験できる要素が増えてきたんです。それらを駆使することで、認知の先にある商品検討や来店のきっかけ作りの設計がしやすくなっている。つまり、Twitterがサイト訪問や問い合わせの入口という役割になる可能性があり、「売り上げアップ」に直接貢献できるようになる。このような、中長期的な視点を持って全体的な設計を行い、お客様のKGIに向き合っていくべきだと考えています。
Q.それでは、「Twitterをうまく使えている企業」はどんな企業でしょうか?
崔:Twitterの文脈を理解している企業です。Twitterのユーザーが日頃どんなものを見て、どんなリアクションを取っているのか。それをしっかりと把握している企業は、うまくいく可能性が高いと思います。たとえ面白いツイートをしていても、それに対するユーザーアクションを把握していないと効果につながりにくい。自社のツイートに対するユーザーのアクションを、先に想定してツイートを計画するのがポイントです。
例えば、Twitterのユーザーの中には、ツイートを見るだけのいわゆる「見る専」のアカウントと、積極的に「いいね」やリツイートなどのアクションを起こしてくれるアカウントがあります。Twitterで話題を作るために、より重視すべきなのは、後者のアカウントを刺激し、多くのリアクションをしてもらうことです。そういうアカウントは何かのツイートをきっかけに「議論」したり、「大喜利」したりすることを好む傾向にあるので、そこに向けて、このツイートで「いいね」をしてほしいのか、コメントで「議論」をしてほしいのかなど、ユーザーがそのアクションを起こせるよう刺激する工夫をすることが、うまくいく運用のコツなのでは、と考えています。
Q.こういう商材だったらTwitterに向いているというものはありますか?
崔:食料品や日用品のような消費財など、ユーザーとの距離感が近い商材は比較的売上につなげやすいかもしれません。一方で、家や車のような高額商材は、Twitterから購入に至るまでのプロセスがどうしても長くなりますが、「向いてない!」ということではないと思うんです。そういった商材の場合、Twitterは先ほど話した「入口」の役割に徹するものとして位置付けるなど、その商材の特性や、他のコミュニケーション手段との役割分担なども考慮しながら設計していくといいですね。「Twitterを通じての体験」を提供することで、ユーザーとコミュニケーションを持ち、次のステップに繋げる設計もできますので、「こんな商材でも大丈夫かな?」と思われる案件でもぜひご相談いただければと思います。
話題化や流行を生み出すなど、「世の中ゴト」を作るのに適しているというTwitter。加えて、多様化が進むこの時代においては、興味や関心に合わせたターゲティングができるという特性も重要になるのかもしれません。さらに後編では、Twitter運用で大切な「継続的なコミュニケーション」の秘訣や、そこからバズへとつなげる設計について語ってもらいます。